元塾生・林 廷玟さん(ハノーファー州立歌劇場/ニーダーザクセン州立管弦楽団 副首席ヴィオラ奏者)インタビュー
2000年の開始以来、小澤征爾音楽塾で学んだ音楽家の数は1000人以上。現在では多くの音楽家が国内外のオーケストラをはじめとする様々な音楽現場で活躍しています。韓国出身でハノーファー州立歌劇場/ニーダーザクセン州立管弦楽団 副首席ヴィオラ奏者として活躍する林廷玟さんもその一人。小澤征爾音楽塾での経験を改めて振り返ってくれました。
林 廷玟
Jungmin Lim
ハノーファー州立歌劇場/ニーダーザクセン州立管弦楽団 副首席ヴィオラ奏者
[小澤征爾音楽塾オーケストラ参加歴]
2016年 小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトXIV
J.シュトラウスII世:喜歌劇「こうもり」
2017年 小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトXV
ビゼー:歌劇「カルメン」
2019年 セイジ・オザワ 松本フェスティバル
「子どものための音楽会」
─音楽塾に参加された経緯やきっかけを教えてください。
韓国の大学に通っていた時、ユースオーケストラにとても興味がありました。私の父もまた、故郷のオーケストラでヴィオラ奏者として働いていたので、私も卒業後はオーケストラに所属して活動することを夢見ていました。そのため、ドイツ、スイス、イギリスなどで、小澤征爾音楽塾に似たオーケストラアカデミーに参加するようになりました。そのような中、大学の友人が音楽塾のオーディションについて教えてくれました。韓国で初めて開催された音楽塾のオーディションだったと思います。とても小さなホールで審査員がすぐ目の前に座っていたので、とても緊張したのを覚えています。これまでに参加したオーケストラアカデミーとは異なり、オペラを中心に学べる点が特別だと感じましたし、日本に行ったことがなかったので、ぜひ参加したいと思いました。幸運にもオーディションに合格し、2016年に学校の友人たちと一緒に初めて音楽塾に参加できてとても嬉しかったです。それ以来、数年間参加し、素晴らしい思い出をたくさん作ってきました。
─(音楽塾の)先生方からの教えや指導で、特に心に残っているものや影響を受けたものはありますか?
音楽塾に初めて参加したときのことをよく覚えています。J.シュトラウスII世の「こうもり」を演奏したのですが、当時はドイツ語をあまり理解していなかったにもかかわらず、華やかな舞台と主演歌手たちのパフォーマンスに完全に魅了されました。小澤先生が序曲を演奏する際に、全員立って演奏するように指示されたのですが、オーケストラで立って演奏するのは初めてで、少しぎこちなく感じながらもエネルギーに溢れ、活気あるオペラの幕開けを作り出すことができたので、とても印象に残っています。最近、その思い出の瞬間をインターネットで見つけて振り返ることができ、とても嬉しく思いました。また、小澤先生は音楽を通じて各自が感じる感情を直接伝えるように「シャベッテ(喋って)」と言ったり、「キイテ(聴いて)」と言って、お互いによく耳を傾けることを忘れないようにと教えてくださいました。これらの教えは私にとって忘れられないものとなっています。
─学校でのオーケストラの授業と音楽塾で受けた指導との主な違いは何だと思いますか?
音楽塾の指導は、より繊細だと感じました。特に、弦楽器の先生方が学生たちの間に入って一緒に演奏し、直接実演を見せていただきながら指導してくださったことが印象的でした。オーケストラで役立つ弓使いの技術だけでなく、身体の動きについてのアドバイスもしてくださり、その教えは後のオーケストラでの活動において大いに役立ちました。リハーサルの過程は、決して楽なものではありませんでした。ある日、ヴィオラの川本嘉子先生が総譜を手渡してくださり、客席で聴いて自分たちの考えや意見を話し合うよう促されました。振り返ってみると、それまでオーケストラ内で練習するだけで、自分たちの演奏が全体としてどう聴こえるかを聴いたことはありませんでした。総譜を持って客席から舞台リハーサルを見て、新たな視点が生まれ、「こんな素晴らしい舞台を準備しているんだ」と実感すると、観客にそれを伝えたい気持ちがさらに強くなりました。
また、セイジ・オザワ 松本フェスティバル期間中に音楽塾オーケストラでベートーヴェンの交響曲第5番を演奏したときのことです。私はまだ若い学生でしたが、先生方は私たちの意見や小さな質問にも真摯に耳を傾けてくださいました。当時、私はヴィオラパートをリードしなければならなかったので、リハーサルが進むにつれて曲についてより深く知るほど、疑問が増えていきました。先生方は私の悩みに耳を傾け、一緒に意見を交わし、ときには議論しながら、まるで一緒に音楽を探求しているような感覚を持つことができました。
─音楽塾で学んだことが、その後の演奏に影響を与えたと感じますか?
もちろんです!今ではドイツの州立劇場オーケストラで働いており、オペラは私の生活に欠かせない一部となりました。劇場に所属するオーケストラ奏者として、多くのオペラやオーケストラの公演を準備し演奏していますが、音楽塾で学んだように、毎回曲を深く理解する過程を踏むようにしています。日常的に多くの公演をこなす中でも、時折、心のどこかからじわじわと湧き上がる感動に包まれる瞬間があります。説明が難しいのですが、─演奏者や音楽家なら誰もが共感できるもの─ 音楽との一体感だと思います。おそらく、小澤先生や他の先生方が当時私たち若い学生に伝えたかったのは、これなのかもしれないと思うことがあります。音楽塾を修了してからかなりの時間が経ちましたが、私がこのような貴重な経験を得たように、若い人たちにも同じような学びと成長の機会が訪れることを心から願っています。