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2024.01.13

【連載①】「小澤征爾音楽塾のオペラができるまで」

WEB連載「小澤征爾音楽塾のオペラができるまで」では、3月15日にロームシアター京都で初日を迎える「コジ・ファン・トゥッテ」の幕が開くまで(そして開いてからも)をレポート。日本、そしてアジア各国でのオーディションを経て選ばれた、プロを目指す若手音楽家が、一流のキャストやスタッフと共に集中的に「オペラをつくる」、この大型プロジェクトの舞台裏はどうなっているのか?そして、どのような人間ドラマがあるのか?


宮本 明(音楽ライター )

 閑静な住宅街の広いオフィス。大きな窓の正面には雪をかぶった富士山がくっきり見える。なんてうらやましい環境!
「小澤征爾音楽塾のオペラができるまで」をレポートせよというご下命を賜った。曰く。オペラの幕が開くまでの舞台裏には必ず、それ自体にまるでオペラのような人間のドラマがあるから、と。予期せぬドラマに期待しながら、客席からだけでは知ることのできない、音楽塾のオペラができるまでを探ってみたい。まずはその第一歩として、2023年も残りわずかという12月下旬、音楽塾のオフィスを訪れた。

「できるまで」といっても3月15日(金)のロームシアター京都での開幕まで、すでに3か月を切ったタイミング。スタッフのみなさんに「マラソンでいうと今どのあたり? 30キロ過ぎの勝負どころ?」と尋ねると、「うーん。考えたことがないですねー……。リハーサルも始まってないので、まだまだ序盤でしょうか」と、思いのほか切羽詰まった感は漂っていない。しかし当然ながら、ずっと前から準備は始まっている。今回はまず、事務局の仕事の流れを紹介しながら、「できるまで」のスケジュールをざっくり追ってみよう。

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さらに、演目の決定から出演歌手のキャスティング、演出・装置・衣裳などの舞台制作等々、プロジェクト全体は数年前から進んでいる。また今回は、コロナ禍で中止されていた塾生(オーケストラ・メンバー)の海外オーディションも復活した。それらのことは、またあらためて。

2024年の演目が《コジ・ファン・トゥッテ》であることが公式サイトやSNS上で発表されたのが2023年2月22日。同時にその日、カヴァーキャストのオーディション開催も告知されている。実際にオーディションが行われたのは3月18日(京都)と3月22日(東京)。当年の公演(2023年は《ラ・ボエーム》)の合間を縫って、指揮者や音楽スタッフが揃っている時期に翌年の公演のオーディションを実施するというスキームだ。
カヴァーキャストは本役に不測の事態があった時のピンチヒッターとして、歌はもちろん立ち位置から演技まで万全の準備で控えているのが基本的な役割。音楽塾の場合、教育プログラムにソリストとして出演するなど、存在感は大きい。それだけに、音楽塾のカヴァーキャストは、他のプロダクションでは本役にキャスティングされているような実力派ぞろいだ。オーディションには毎回、「すごい人数」(byスタッフ)が参加するという。ある意味、本役以上に狭き門かもしれない。

オーケストラピットには若手演奏家、舞台上には世界で活躍する一流歌手たちという組み合わせは、世界でも小澤征爾音楽塾だけの布陣だろう。出演歌手は海外勢が中心となるので、招聘のための渡航手続きは必須。外国人演奏家を日本に招くにはまず、東京出入国在留管理局で「在留資格認定証明書」を発行してもらわなければならない。その申請・交付システムが2023年から変わった。それまではすべて紙の書類でやりとりして、交付された「証明書」を国際宅配便で発送しなければならなかった。それが電子化され、申請〜交付をオンラインで完結できるようになったのだそう。
というので、パスワードなどで厳重にセキュリティを管理したデジタル証明書が発行されるのかと思いきや、交付される「在留資格認定証明書」はメール本文。それをそのまま海外に転送する。受け取った外国人演奏家は、日本の在外公館でそのプリントアウトやスマホ画面を提示してビザを申請するのだ。在留資格の確認は、文面に記載されている交付番号で照合するのだろう。従来のいかにも公文書然とした写真付きの証明書類に比べると拍子抜けするほど簡素だが、手続きの手間が軽減されるのは、交付する側にもされる側にも、よいことしかないだろう。

さて、まもなく恒例のプレイベント「小澤征爾音楽塾展」(入場無料)が開催される[1/15(月)〜3/17(日)ロームシアター京都「ミュージックサロン」]。今年の演目《コジ・ファン・トゥッテ》のストーリーや今回のプロダクションの演出・舞台装置・衣裳についての紹介が多数展示され、公演の予習にはもってこい。
小澤の書き込みのある使用スコア(複製)などとともに目玉となるのが、2001年小澤征爾音楽塾公演《コジ・ファン・トゥッテ》の映像(抜粋)だ。なんと舞台上はいっさい映さず、終始オケピットの小澤征爾を捉えた、貴重な未公開記録映像は必見。なお、展示室が少し奥まった場所にあるのでちょっとわかりづらいかもしれないけれど、案内表示に従って進めば迷うことはないはず。

小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトの本公演が行なわれるのは、毎年一度、京都と東京を中心に3月だけ。でも、事務局では1年を通してさまざまな仕事が切れ目なく続いている。「1年を20日で暮らす」(*2)なんていうことがあるはずないのはいうまでもない。

*1 ● 3月中〜下旬開催が定番となったのは東日本大震災の翌年の2012年から(2016年は2月開催)。それ以前は4〜7月を中心に開催されていた。
*2 ●「一年を二十日で暮らすいい男」。相撲興行が年2場所20日間しかなかった江戸時代、力士たちの暮らしぶりをやっかんでよんだ川柳。

写真は、2001年4月 小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅡ モーツァルト:歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」より


【連載】「小澤征爾音楽塾のオペラができるまで」
イントロダクション, ①,

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