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2024.03.15

【連載⑭】「小澤征爾音楽塾のオペラができるまで」:「子どものためのオペラ」とメインキャストのリハーサル

WEB連載「小澤征爾音楽塾のオペラができるまで」では、3月15日にロームシアター京都で初日を迎える「コジ・ファン・トゥッテ」の幕が開くまで(そして開いてからも)をレポート。第14回は、3月11日(月)のカバー・キャストによる「子どものためのオペラ」のリハーサルと、メインキャストのプレ・ドレスリハーサルの模様より。


宮本 明(音楽ライター )

3月11日(月)の小澤征爾音楽塾は濃厚な一日だった。

まず午前中にカバー・キャストによるオーケストラ付きの立ち稽古があった。これは翌日に行なわれる、京都府内の小学生を招く「子どものためのオペラ」公演に向けての、実質的なゲネプロといえるリハーサル。衣裳もカツラもつけて、本番同様の進行で行なわれる。
ちなみに「子どものためのオペラ」は第1幕のみの抜粋上演。フィオルディリージとドラベッラの姉妹は、ここではまだ男たちの誘惑にぎりぎり持ちこたえているから、裏切りとか浮気とかがなく、教育的にもよい抜粋かも。多くの小学生たちにとっては初めてのオペラとなるであろう《コジ・ファン・トゥッテ》。楽しんでほしい。

そして午後からはメインキャストによる最終の立ち稽古。小澤征爾音楽塾では英語でPre Dress Rehearsalと呼んでいるが、ドイツ語でHP=Hauptprobe(ハウプトプローべ) とも呼ばれる。よく聞く最終総稽古のゲネプロ(Generalprobe ゲネラルプローべ=GP)のひとつ前の段階ということで、現場的には明確な違いがあるのかもしれないけれど、どちらも本番同様に行なわれるリハーサル。基本的には止めずに最後まで通す。
ちなみにコンサートの世界だと、本番当日のステージ・リハーサルのことを「ゲネプロ」と呼ぶ楽団もあって、それは必ずしも通すとは限らない。このあたり、同じ舞台用語でも業界によって多少の違いがあるのは面白いところ。

初めて全幕を通して見ることができて、今回のプロダクションの全貌が鮮明になった。書割や、ペイントのある幕を巧みに用いたシンプルな舞台は、淡彩の衣裳と照明が合わさると見事に美しい。そして躍進中の注目の若手と大ベテランとのコンビネーションが、ストーリーに膨らみを与える。各自のアリアはもちろん、美しい重唱も息ぴったりだ。そしてモーツァルトのうきうきするような音楽。塾生オーケストラも仕上がり上々だ。本番がいよいよ楽しみになる。
とはいえ、カバー・キャストの立ち稽古とメインキャストHPの2つを一日に連続してこなすオーケストラと指揮者、そして制作スタッフにとっては、集中力を持続するだけでもかなりのエネルギーが要求されたのではないだろうか。お疲れさま!

リハーサルの最後にサプライズ。カーテンコールの段取りを終えた途端、突如オーケストラが「Happy Birthday」のメロディを弾き始める。この日はドン・アルフォンソ役のロッド・ギルフリーの誕生日だった。舞台上に居並ぶソリストと合唱団の壮大な歌声が響く。最後の「♪to you」のところでギルフリー自身も「♪to me」と声を合わせたが、ト長調で1オクターヴ上げて歌うバリトンの「ラ─ソ」は大迫力だった!

ところで、この数日のリハーサルでは、ときおり序曲を弦楽器パートが立って弾いている(チェロ以外)。コーチ陣によると、音を遠くに飛ばすイメージで弾いてほしいというのが狙いで、かつて小澤征爾塾長も試みていたやり方を採用したのだそう。以前NHKが制作した、2003年の小澤征爾音楽塾《こうもり》のドキュメンタリー番組にもそのシーンがあった。
「立奏」は、近年はテオドール・クルレンツィスとムジカエテルナの活躍ぶりでも注目されているが、もちろんそれより前から採用しているグループもある。今回コーチで参加しているヴァイオリニスト後藤和子が所属するオーストラリア室内管弦楽団もそのさきがけのひとつだ。彼女に立奏の効果を尋ねると、まず身体を自由に動かせるので弾きやすいのだそう。周囲とのコミュニケーションも取りやすい。さらには、学生たちは、普段のレッスンや個人練習でもおそらく立って弾いているので、立奏は、いわば日常なのかもしれない。
実際、視覚的なイメージのせいかもしれないけれど、立って弾く途端に、音が“喜んでいる”ように感じる。この日後半のHPでは痤奏に戻していたが、もしかすると本番でも採用する可能性があるとのこと。弾き始めのオーケストラ・ピットにも注目だ。

“音を飛ばす”といえば、指揮者ディエゴ・マテウスから愉快な指示も。序奏冒頭の「♪タン、タターン」というハ長調の和音3発。もっと音を飛ばしたいということで、奏者自身もいろいろ工夫しながらトライしているのだが、そこでマテウス。「like DRAGON BALL !」と言いながら、客席に向かって例のポーズで「かめはめ波」を放った。周知のとおり、『ドラゴンボール』の作者・鳥山明の突然の訃報が世界中を駆け巡ったばかり。『ドラゴンボール』の連載開始は1984年。マテウスと同い年だ。悟空、好きなのか?ディエゴ。


【連載】「小澤征爾音楽塾のオペラができるまで」
イントロダクション
#1
#2 オーディションに挑む若き音楽家たち─音楽塾の“主役”、塾生オーケストラ
#3 小澤征爾音楽塾展2024
#4 歌手リハーサル開始!
#5 塾オケリハーサル初日
#6 塾オケリハーサル 2日目─楽器ごとの分奏
#7 小澤征爾音楽塾合唱団─根本卓也さん(合唱指揮)インタビュー
#8 塾オケリハーサル 3日目─弦楽パートのリハーサル
#9 塾オケリハーサル 5日目─カヴァー・キャストとの初合わせ
#10 小澤征爾音楽塾展2024─小澤征爾塾長のスコア
#11 京都リハーサル初日
#12 バックステージツアー
#13 原田禎夫副塾長のスピーチ
#14「子どものためのオペラ」とメインキャストのリハーサル
#15「子どものためのオペラ」楽器紹介編
#16 ゲネプロ
#17 元塾生・大宮臨太郎さん(NHK交響楽団 第2ヴァイオリン首席奏者/サイトウ・キネン・オーケストラ ヴァイオリン奏者)インタビュー
#18 原田禎夫副塾長インタビュー
#19 カヴァー・キャスト 中川郁文さん(ソプラノ)&井出壮志朗さん(バリトン)インタビュー
#20 本番
#21 首席指揮者 ディエゴ・マテウス インタビュー

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