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2024.03.09

【連載⑦】「小澤征爾音楽塾のオペラができるまで」:小澤征爾音楽塾合唱団─根本卓也さん(合唱指揮)インタビュー

WEB連載「小澤征爾音楽塾のオペラができるまで」では、3月15日にロームシアター京都で初日を迎える「コジ・ファン・トゥッテ」の幕が開くまで(そして開いてからも)をレポート。第7回は、本公演の合唱指揮を務める根本卓也さんにお話を伺いました。


宮本 明(音楽ライター )

《コジ・ファン・トゥッテ》初日まで1週間を切ってリハーサルもいよいよ佳境。一方で日曜日からは、子どものためのオペラや周辺会場でのミニコンサートなどの関連イベントも目白押しだ。いわば「小澤征爾音楽塾ウィーク」。公演に向けての盛り上がりに華を添える。
3月10日(日)京都市京セラ美術館では、《コジ・ファン・トゥッテ》に出演する小澤征爾音楽塾合唱団有志メンバー(22人)による合唱ミニコンサートが開かれる(無料)。
指揮は、《コジ・ファン・トゥッテ》の合唱指揮を務める根本卓也。リハーサルの合間を縫って話を聞いた。

─どんなコンサートになりますか。

たとえば《カルメン》とか《こうもり》とか、このところ小澤征爾音楽塾で上演してきた演目と比べると、モーツァルトのオペラは比較的合唱の出番が少ないので、合唱団も腕が鳴るだろう、もう少し歌いたいだろうということで、例年オーケストラのメンバーが京都市内各地で「出張コンサート」を行っているのですが、合唱にもその機会を、ということで実現しました。
モーツァルトの《戴冠ミサ曲》は《コジ・ファン・トゥッテ》よりもずっと早く作曲された曲ですが、フィオルディリージのアリアにそっくりな旋律が出てくるんですね。まずそれを選曲して、もう一曲何か。小澤征爾さんともモーツァルトとも関連するウィーンの作曲家ということでシェーンベルクの《地上の平和》を選びました。

─聴きどころはどんなところでしょうか。

ちょうど2年前の《こうもり》の時に、ウクライナ紛争が勃発して以来、この時期に「平和」をテーマに演奏できないかと模索していたのがようやく実現しました。《地上の平和》は宗教曲ではありませんが、平和への祈り。2つの作品は作曲年代も130年ほどの開きがありますし、タイプもまったく異なりますが、時代は変わっても平和を祈る人々の気持ちは変わらないのだということが感じられると思います。
シェーンベルクというと、現代音楽でとっつきづらいというイメージがあるかもしれませんが、初期の作品はロマンティックで美しい曲が多くて、それをもっと紹介したいなと思っていました。《地上の平和》はその最後の時期の作品です。今年はシェーンベルク生誕150年のメモリアル・イヤーでもあります。
《戴冠ミサ曲》にはたくさんのソロがあるのですが、合唱団内でオーディションをして、しかも楽章ごとにソリストを変えて、なるべくたくさんの人にソロ・パートを経験してもらっています。

─小澤征爾音楽塾合唱団の長所はどんなところでしょう。

フレキシビリティですね。若くて、とても反応が早い。音楽塾というプロジェクトの性質上、勉強という側面があるので、かなり時間をかけて緻密に練習しています。また《コジ・ファン・トゥッテ》はイタリア語、このコンサートはドイツ語とラテン語ですので、それぞれのディクションの違いとか、普段の仕事の活動の中だとおろそかになってしまう基本のところに立ち返る良い機会ということで、彼らも楽しんでやってくれていると思います。

─オペラ公演に向けて、手応えや見どころを聞かせてください。

かなり積み上がってきています。楽しみですね。毎年思うのですけれども、才能のある若いミュージシャンたちが集まっているので、オーケストラもフレキシビリティが高い。もちろん経験がないぶん、アンサンブルとか、ピットの中で演奏するとかというところに順応するための時間が必要なのは事実なのですが、基本的な技術があるし、若いので順応するのが早い。フレッシュな響きが楽しめます。
また、デイヴィッド・ニースさんの演出は奇を衒うことなく、今日ではある意味だんだん珍しくなってきているオーセンティックな演出なんですね。今回も、書割と幕という、モーツァルトの時代に近いテクニックを使っているので、学生が見て、オペラってこういうものだと勉強していただくにもいいと思いますし、逆にいろんな演出を見慣れた、あるいは見疲れてしまったオペラ・ファンの皆さんも、これなら音楽に集中できるよねと感じていただけると思います。
それと、小澤征爾音楽塾が招聘するソリストには比較的アメリカやカナダの方が多いのですが、じつはこれは日本ではあまり多くないんですね。アメリカは劇場も多いし、マーケットも大きいので、アメリカ国内だけでキャリアを完結して、国外になかなか出てこない歌手も多いんです。その中で毎年、「あ、こんなすごい歌手がいたのか!」という人に出会える驚きがあります。

─合唱の聴きどころは?

すごく小さな場面なのですが、第2幕の第4場です。フェランドとグリエルモの美しい二重唱の後に、合唱がリフレインのように歌います。モーツァルトのオペラの合唱は、比較的「元気いっぱい!」みたいな明るい使い方が多いのですが、ここはとてもしっとりした曲なんです。ほんの小さな、たった11小節だけの曲なのですが、デュエットの美しい余韻を壊さないような完成度にするために、3時間も4時間もかけて練習ました。それを聴いていただけるとうれしいですね。

─最後に合唱指揮者の役割を教えてください。

《コジ・ファン・トゥッテ》には合唱が舞台裏で歌うシーンがありますが、そこでピットの指揮者に合わせて指揮をしているのは私です。指揮者や客席との距離による時間差なども計算して指揮しなければなりません。
また今回、24人の合唱に対しては舞台が広く、奥のほうに散らばって配置されるので、並び方によって、とくに稽古の初期には音がすごく偏ったりしていたんですね。それを演出チームとも連携しながら、ここはソプラノを前のほうにしたほうがいいとか、人を入れ替えたりとか。オペラの合唱指揮者はそんな責任も担っています。

─ありがとうございました。3月10日のミニコンサート、そしてオペラ公演の本番。合唱の活躍にも期待しています。


【連載】「小澤征爾音楽塾のオペラができるまで」
イントロダクション
#1
#2 オーディションに挑む若き音楽家たち─音楽塾の“主役”、塾生オーケストラ
#3 小澤征爾音楽塾展2024
#4 歌手リハーサル開始!
#5 塾オケリハーサル初日
#6 塾オケリハーサル 2日目─楽器ごとの分奏
#7 小澤征爾音楽塾合唱団─根本卓也さん(合唱指揮)インタビュー
#8 塾オケリハーサル 3日目─弦楽パートのリハーサル
#9 塾オケリハーサル 5日目─カヴァー・キャストとの初合わせ
#10 小澤征爾音楽塾展2024─小澤征爾塾長のスコア
#11 京都リハーサル初日
#12 バックステージツアー
#13 原田禎夫副塾長のスピーチ
#14「子どものためのオペラ」とメインキャストのリハーサル
#15「子どものためのオペラ」楽器紹介編
#16 ゲネプロ
#17 元塾生・大宮臨太郎さん(NHK交響楽団 第2ヴァイオリン首席奏者/サイトウ・キネン・オーケストラ ヴァイオリン奏者)インタビュー
#18 原田禎夫副塾長インタビュー
#19 カヴァー・キャスト 中川郁文さん(ソプラノ)&井出壮志朗さん(バリトン)インタビュー
#20 本番
#21 首席指揮者 ディエゴ・マテウス インタビュー
 

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