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2024.03.14

【連載⑬】「小澤征爾音楽塾のオペラができるまで」:原田禎夫副塾長のスピーチ

WEB連載「小澤征爾音楽塾のオペラができるまで」では、3月15日にロームシアター京都で初日を迎える「コジ・ファン・トゥッテ」の幕が開くまで(そして開いてからも)をレポート。第13回は、3月9日(土)午後のリハーサルを前に、原田禎夫副塾長がオーケストラメンバーに伝えたメッセージについて。


宮本 明(音楽ライター )

3月9日(土)の午後のリハーサルは、協賛のローム株式会社関係者に公開された。
その冒頭、小澤征爾音楽塾副塾長であるチェロのコーチ原田禎夫が、オーケストラのメンバーにひとこと聞いておいてほしいと、英語と日本語で語り始めた。内容はおおむね以下のとおり。

小澤さんのことを知らない人も多いと思う。小澤征爾音楽塾は2000年に《フィガロの結婚》から始まって、もう25年が経つ。
このプロジェクトには大勢の人が関わっていることを知っておいてほしい。舞台裏のスタッフ、指揮者、指導陣。みんなが半年以上も前から働いている。だからぜひ、1分でも1秒でも大事にしてください。
あなたたちは500人を超える応募者の中からオーディションで選ばれたメンバー。今はまだわからないかもしれないけれども、これだけの素晴らしい機会というのは、一生に一度あるかないか。征爾はものすごい情熱で取り組んでいて、生徒がお金を払って勉強するフェスティバルは世界にたくさんあるけれど、彼はそれを絶対に嫌がって、当時のロームの社長の佐藤研一郎さんの協力があってこの音楽塾は実現した。
音楽塾でも、奥志賀の小澤国際室内楽アカデミーでも小澤征爾スイス国際アカデミーでも、学生は無料で学ぶことができる。それは本当に小澤さんのパッション。教育には長い時間がかかる。今やらなければダメだということで始まったんだ。あの人は本当に最後まで、みんなに教える時は目の色が違った。必死だった。その小澤さんのまいた種はもう花開いていて、日本でもヨーロッパでも、卒業生がみんな、コンサートマスターだったり、教授だったり、すごくいいポジションで活躍している。
僕は、彼が何があっても絶対にこのアカデミーを潰したくなかったことを知っている。彼は亡くなってしまったけれど、きっとここにいると思う。だから今年はみんなに、征爾のためにやってほしい。小澤さんのためにやりましょう。
でも、深刻になることはない。それを楽しんで。小澤さんはそういう人。楽しみながらやってくれる人だったから。それを思いながら、小澤さんのために頑張りましょう。ありがとう。

**********

「ありがとう」のひとことが沁みる。
「小澤さんのために」というスローガンは、まずはその情熱を引き継いだコーチ陣自身の胸に熱く刻まれているはずだ。いうまでもなく、小澤征爾その人は、自分のためにではなく、音楽のためにやっていたことも全員がわかっている。そしてそのパッションはすでに、少しずつ、確実に若い塾生たちに伝わっていると思う。
京都でのリハーサルが始まってから、全体のリハーサルの始まる数時間も前から、あるいは夕方のリハーサル終了後から22時の退館時刻まで、ロームシアター京都館内のあちこちから、自主的に練習する、そしてコーチのレッスンを受ける彼らの音が聴こえてくる。もし本当にどこかに小澤がいるのなら、きっとその傍らで、若い音楽家たちの音に真剣な表情で聴き入り、時間を忘れて見守っているにちがいない。


【連載】「小澤征爾音楽塾のオペラができるまで」
イントロダクション
#1
#2 オーディションに挑む若き音楽家たち─音楽塾の“主役”、塾生オーケストラ
#3 小澤征爾音楽塾展2024
#4 歌手リハーサル開始!
#5 塾オケリハーサル初日
#6 塾オケリハーサル 2日目─楽器ごとの分奏
#7 小澤征爾音楽塾合唱団─根本卓也さん(合唱指揮)インタビュー
#8 塾オケリハーサル 3日目─弦楽パートのリハーサル
#9 塾オケリハーサル 5日目─カヴァー・キャストとの初合わせ
#10 小澤征爾音楽塾展2024─小澤征爾塾長のスコア
#11 京都リハーサル初日
#12 バックステージツアー
#13 原田禎夫副塾長のスピーチ
#14「子どものためのオペラ」とメインキャストのリハーサル
#15「子どものためのオペラ」楽器紹介編
#16 ゲネプロ
#17 元塾生・大宮臨太郎さん(NHK交響楽団 第2ヴァイオリン首席奏者/サイトウ・キネン・オーケストラ ヴァイオリン奏者)インタビュー
#18 原田禎夫副塾長インタビュー
#19 カヴァー・キャスト 中川郁文さん(ソプラノ)&井出壮志朗さん(バリトン)インタビュー
#20 本番
#21 首席指揮者 ディエゴ・マテウス インタビュー
#22 番外編
#23 取材を終えて

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