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2024.03.03

【連載⑤】「小澤征爾音楽塾のオペラができるまで」:塾オケリハーサル初日

WEB連載「小澤征爾音楽塾のオペラができるまで」では、3月15日にロームシアター京都で初日を迎える「コジ・ファン・トゥッテ」の幕が開くまで(そして開いてからも)をレポート。第5回は、3月1日(金)の小澤征爾音楽塾オーケストラ初日リハーサルの模様から。


宮本 明(音楽ライター )

3月1日(金)、いよいよ小澤征爾音楽塾オーケストラのリハーサルが始まる。東京、京都および台北、上海、北京、ソウルでのオーディションで選抜された53人の塾生たちが初めて一堂に会する日だ。東京・調布市の桐朋学園大学でのリハーサルは予定どおりに……始まらなかった!
リハーサルは午後1時開始予定だったが、その2時間ほど前に、なんと調布駅で電力設備故障が発生して京王線が運転見合わせ。塾生だけでなくコーチ陣も含めて、多くのメンバーが足止めを食らった。筆者はバスを利用して、さいわいさほど影響なく現地に到着したのだけれど、運転再開までリハーサルは始められないだろうとのんびり構えていた。
しかし人類がモバイル機器を獲得した現代において、それは昭和の感覚だった。LINEなどを駆使して、近くにいる塾生同士をタクシーに同乗させて会場まで誘導(もちろんタクシー代は音楽塾負担)。結局京王線が復旧したのは午後2時過ぎだったが、それとほぼ同時にリハーサルが始まった。

冒頭、首席指揮者ディエゴ・マテウスのひとこと。
「マエストロ・セイジは肉体的には不在かもしれないが、私たちとともにここにいます」
じんわりする。

リハーサルはもちろんマテウスが指揮して進めるが、頼もしいコーチ陣がそれを補佐する。
後藤和子(ヴァイオリン)、フランチェスコ・セネーゼ(ヴァイオリン)、豊嶋泰嗣(ヴァイオリン)、川本嘉子(ヴィオラ)、原田禎夫(チェロ)、池松宏 (コントラバス)、石川滋(コントラバス)、工藤重典(フルート)、ジャック・ズーン(フルート)、宮本文昭(オーボエ)、山本正治(クラリネット)、吉田將(ファゴット)、猶井正幸(ホルン)、高橋敦(トランペット)、中谷孝哉(ティンパニ)、竹島悟史(ティンパニ)

この日は練習初日ということもあり、まずはいったん全幕を弾いてみるという方針だったようだ。マテウスは「ここは1小節2つ振り、ここから4つ振り」と振り方をあらかじめ口頭で教えてくれる。親切。といってもただ通すだけではなく、ところどころ返しながらさまざまな指示も与えていく。
メンバーの平均年齢は21.5歳。若い! 応募資格下限の最年少16歳(3人)から最年長27歳まで。10代の塾生が15人もいるのも初々しい。国籍の内訳は日本40、台湾2、中国8、韓国3。53人のうち38人は音楽塾初参加だ。
シーティング(席次)を固定しないのは音楽塾のいつものやり方で、リハーサルのシートも第1幕と第2幕では異なる。たとえばヴァイオリン・パートは第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンも流動的。第1幕でコンサートマスターだったメンバーが第2幕では第2ヴァイオリンを弾いたりしている。
コーチ陣の動きは人それぞれで、塾生たちと並んで座って、さっそくさまざまなアドヴァイスを与えているコーチもいれば、後方に座ってずっとメンバーの様子を観察しているコーチもいる。翌日以降、どんなふうに指導していくのか、塾生たちがどう変わっていくのか、楽しみだ。
電車の事故というアクシデントに見舞われはしたものの、2024年の小澤征爾音楽塾オーケストラがいよいよ動き始めた!


【連載】「小澤征爾音楽塾のオペラができるまで」
イントロダクション
#1
#2 オーディションに挑む若き音楽家たち─音楽塾の“主役”、塾生オーケストラ
#3 小澤征爾音楽塾展2024
#4 歌手リハーサル開始!
#5 塾オケリハーサル初日
#6 塾オケリハーサル 2日目─楽器ごとの分奏
#7 小澤征爾音楽塾合唱団─根本卓也さん(合唱指揮)インタビュー
#8 塾オケリハーサル 3日目─弦楽パートのリハーサル
#9 塾オケリハーサル 5日目─カヴァー・キャストとの初合わせ
#10 小澤征爾音楽塾展2024─小澤征爾塾長のスコア
#11 京都リハーサル初日
#12 バックステージツアー
#13 原田禎夫副塾長のスピーチ
#14「子どものためのオペラ」とメインキャストのリハーサル
#15「子どものためのオペラ」楽器紹介編
#16 ゲネプロ
#17 元塾生・大宮臨太郎さん(NHK交響楽団 第2ヴァイオリン首席奏者/サイトウ・キネン・オーケストラ ヴァイオリン奏者)インタビュー
#18 原田禎夫副塾長インタビュー
#19 カヴァー・キャスト 中川郁文さん(ソプラノ)&井出壮志朗さん(バリトン)インタビュー
#20 本番
#21 首席指揮者 ディエゴ・マテウス インタビュー
#22 番外編
#23 取材を終えて

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